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オーディオテクニカ ATH-WP900 ヘッドホンの試聴レビュー
投稿日 2019年12月15日 10:15:45 (音響機器)
ATH-WP900
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ATH-WP900 |
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サイズ比較 |
このDLCコーティングはATH-MSR7LTDなどから採用されはじめた比較的新しい技術ですが、高音のレスポンスが今までほど暴れずに安定するようになった印象があるので、新世代のオーテクを代表する技術の一つになったと思います。
ヘッドホンを並べて比較してみると、サイズは従来のESWシリーズと家庭用シリーズの中間くらいなのですが、ハウジングが薄く、回転してフラットに畳めるということで、ポータブル向けだと言えると思います。
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ドライバー |
ちなみに今回の試聴機では3.5mmケーブルしか手元に無かったので、4.4mmケーブルはAP2000Tiのものを借りて使いました。線材が違うようなので鳴り方も違い、AP2000Tiのケーブルの方がサラウンドっぽい立体感が得られるように感じました。どちらかというとATH-WP900標準のケーブルの方が無難で良いかもしれません。
インピーダンス
音質とか
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Questyle CMA Twelve |
昔のオーテクを思い出すと、M50x、MSR7、Aシリーズなど、どれもパッドが硬くゴワゴワしていて、耳との位置の収まりが悪く、サウンドの印象もパッドに左右されがち(つまりレビューとかにも個人差が出やすい)という印象があったのですが、昨年のMSR7b・AP2000Tiくらいからパッドが大幅に改善されて、安定したサウンドが得やすくなってきたようです。
平面駆動型とかの開放型ヘッドホンと比べると、ATH-WP900は中高域全体にシズル感というか、化粧のような響きが上乗せされているように聴こえますが、それが魅力的な個性になっており、地味で退屈なサウンドよりも、むしろこっちのほうが良いと思えます。メイプル材ハウジングの音響効果でしょうか。
他社のコンパクト密閉型ヘッドホンだと、たとえばハウジング反響が前に出てきすぎて、ドライバーからの音色とハウジングからの響きの相対関係が逆になってしまっていたり、逆にそれを嫌って吸音材を入れすぎて、音抜けが悪い、詰まったサウンドになっているモデルが多いのですが、ATH-WP900では、音色の鮮やかさ、響きの厚さ、空間の抜けの良さのバランスが取れているところが気に入りました。
とくにATH-ESW950と聴き比べてみると、ATH-WP900は爽快感が圧倒的に高く、まるで頭上の空間がパーッと広がる感じがするので、それを体験してからATH-ESW950に戻ると「こんなにモコモコして窮屈だったっけ」と驚かされました。高域に明らかな天井が感じられ、全ての音が詰まって反射して戻ってくるような感触がもどかしいです。まるでATH-ESW950では狭い部屋に閉じ込められていた演奏が、ATH-WP900では扉が開かれたかのようです。
さらにATH-WP900は低音側の鳴り方も個性的で面白いと思えました。高音は確かに派手なので、もうちょっと柔らかい方が好きだという人も多いかもしれませんが、低音は満足感が高いと思います。この低音があるおかげで高音も許容できるように思えるので、それがバランス感覚の良さということです。
コンパクト密閉型とは思えないほど奥行きの立体感や空間余裕があり、コントラバスなど低音楽器が目前にクッキリと現れます。不快な捻じれも感じられず、響きは遠く奥へ伸びていき、一音一音に聴き応えがある低音です。大型ヘッドホンであっても、ここまで充実した聴こえ方は稀だと思います。
よくよく考えてみると自分が普段使っているAK T8iEイヤホンと似ているな、なんて思い込みはじめたら、そのイメージが拭えません。ヘッドホンなのにイヤホンっぽいなんて言うと怒られるかもしれませんが、悪い意味ではなく、単純にドライバーだけを鳴らすのではなく、最近の優れたイヤホンと同様に、総合的な音響設計でサイズ以上の音を出す手法が似ているのかもしれません。とくに低音の奥行きなんかは開放型ヘッドホンよりもイヤホンの表現に近いです。
今回ATH-WP900をじっくり試聴してみて、とくに良さが引き出せた新譜アルバムを紹介します。
イギリスGearbox RecordsからBinker Golding「Abstractions of Reality Past and Incredible Feathers」は、強面なジャケットとは裏腹に、とても聴きやすいオーソドックスなジャズカルテットです。サックスのリーダーはフリークトーンを使わないスムーズな吹き方で、オリジナル曲もわかりやすく、リズムセクションもスウィング感があって、今どき珍しい王道ジャズです。
Cuneiform RecordsからTomeka Reid Quartet「Old New」はチェロ・ギター・ベース・ドラムという異色の三弦カルテットで、こちらはかなり攻めている作風です。とくにドラムの推進力があり、弦の即興が複雑に入り乱れる激しい演奏ですが、アンサンブルのテクニックと構成が良いので、意外なほど気持ちよく聴けます。
どちらのアルバムも最新録音なので音質は良好ですが、奏者のニュアンスや生楽器の音色の味わいを楽しむような音楽なので、四角四面なモニターヘッドホンで聴くよりも、ATH-WP900の方が楽器の質感を強調してくれて楽しめます。
たとえばバンド内でピアノが埋もれずにキラキラ輝いて、ドラムのパーカッションもカツンと尖っていながら、奥に抜けていくので耳に刺さることもなく、ベースやキックドラムはまた別の音場配置で堂々と鳴っていて、耳元を埋めつくすような事もありません。
とくにチェロ・ギター・ベースの三絃が混ざらずに、空間・質感ともにしっかり分離してくれるところが、並大抵のコンパクトヘッドホンではないなと思わせてくれます。スピード感あふれる激しい演奏でもついてこれるので、様々なジャンルに対応してくれると思います。
おわりに
Source: Sandal Audio
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